【六月のドライアイ】


この季節の乾燥した横風に吹かれていると
やけに目が乾いて無性に涙がこぼれてくる

少なくとも悲しみの自覚があるわけじゃないのに
表層的には何かを泣いているかのように思われてしまいそうなので
それが堪らなく辛いのである

それにその事とは直接の関係はないのだけれども
各種画廊や風俗店などの客引きがしきりに声を掛けてくるこの街では
いちいちそれら全ての誘いに対応しているわけにもいかず
結果的に誰しもがクールにならざるを得ない

別に誰も皆そうしたくてそうしているわけではなく
そうしないとこの都会で生きてはゆけないから仕方なくそうしているだけなのだが
今こうしてドライアイのために両瞼を瞬たたせながら歩いている時に
彼らの心ない誘いの声を無情の体にて無視している様は
まるで悲劇の最なかにある当事者の狼狽しているそぶりに似通っていて
我ながらいつも通りの自然な素行だと考えることが出来ないのだ

それともこんな事を考えてしまうのは
僕の涙の原因が実は乾燥した空気のせいなんかではなく
自分でも気が付いていない何らかの悲しみに拠るということを
体が勘付いているからだったりするのだろうか?


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