工藤伸一の小説
ハンサム
【第1稿】 :2002/07/10 【最終更新日】 :2002/07/10

 昔、ある農村に勉強も運動も家の手伝いも全て村一番との評判高き神童がおったそうな。
 そんな彼も年頃になり、村一番の長者の娘に密かに恋心なんぞを寄せるようになった。
 ところがある日のこと、都からやってきたどこぞの馬の骨ともわからないきれいな顔をした旅人が村に迷い込み、面食いであった長者の娘に気に入られて、村に住み着くことになった。
 かつての神童は、長者の娘の心が旅人だった男に傾いていることを知り、学問においても、運動においても、仕事においても自分が数倍も優れているということを必死で長者の娘の前でアピールし続けた。
 しかし結局、彼の想いは届かず、程なくして長者の娘は旅人だった男を婿として迎え入れることとなってしまった。
 浮かぬ顔で二人の結婚式に参列した彼は、旅人だった男に、こう聞かずにはいられなかった。
「俺はお前なんかの何倍も努力に努力を重ねて、村一番の働き者と呼ばれている男だ。それなのにどうして、外見の良さだけはお前にかなわなかったのだろう。それを除いては俺がお前に見劣りする部分はひとつもなかった。今日は無礼講の場だ。この機会に、お前のそのきれいな顔を手に入れる秘訣とやらを教えてはくれまいものか?」
 すると旅人だった男は、何食わぬ調子で、こう言ってのけた。
「いや〜、別に秘訣なんてものはないよ。俺は産まれ付きこういう顔だっただけさ。何の努力もしてなんかいないさ。お前さんと食べてきたものの種類が違ったというわけでもないよ」
 それを聞いてかつての神童はがっくりと肩を落とした。
「そうか。どんな努力を持ってしてもかなわないことってあるもんだな。努力家の俺を差し置いてのほほんと飯の差も無く幸せを手に入れちまったお前には、俺からの結婚祝いとして、『飯差無』という称号を送ってやろうではないか。まったくお前は幸せ者でうらやましい限りだよ」

――この話が後の世に広まった今では、努力では得られない持って産まれた果報を象徴する言葉として、きれいな顔の男性のことを、「ハンサム」と呼ぶようになったそうな。 (了)

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