工藤伸一の小説
ゾンビ伝説
【第1稿】 2002/11/16 【最終更新日】 2003/02/19

 ジャングルの奥地で迷っていてたどり着いた集落で一夜を明かした僕は、驚いて飛び起きた。寝袋のすぐ横に、凄惨なバラバラ死体があったからだ。
 僕はとるもとりあえず人を呼んだ。
 しかし妙な事に、こんな非常事態だというのに誰も驚きもしない。
 それどころか、死体を見てにこにこ笑っている。耳を拾って「壁に耳あり〜」とか、首を拾って「お前は首!」と か、胴体を拾って「金のない男は首のないのと同じ!」なんて不謹慎極まりないギャグを言い合っている。
 不審に思いながら遠まきに様子を見ていると、突然、バラバラだった死体のそれぞれの部分が生き物のように動き出して元通りに合体し、死体は生き返ってしまった。
 起き上がった死体に村人の一人が話しかけた。
「ゲンさん、またまた見事なバラバラ死体ぶりじゃったね」
「そうかね? だどもオラ、もともと死体じゃがね」
「それもそうじゃいな。死人が死ぬわけないわいな」
「おいおい、そういうトメさんだって、とっくに死んどるがね」
「それもそんだなや。そもそもこの村にゃ、死人しかおらんのだもの」
 なんとここは、「ゾンビの村」だったのである。僕は急に恐ろしくなってきた。
 村人のひとりが言った。
「……ところで、あいつは妙に肌つやがいいな?」
 途端に、集まっていた全員の視線が一斉に僕に寄せられた。
「もしや、生きてるんじゃあるめえな?」
「生きた人間の肉は、わしらにとっては貴重なタンパク源だ」
 奴らの仲間のひとりが、舌なめずりをしながら上着のポケットのなかから刃物を取り出して、近づいてきた。
 他の奴らもそれに続いて様々な武器を手にとり始めた。
 僕はおそれをなして一目散にその場から逃げ出した。
 道に迷っていた僕が追いつかれ るのは、どうせ時間の問題だろうとは、うすうす感じながらも。   (了)

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