工藤伸一の小説 |
偽者のニジンスキー Nijinsky Posing As Judge Nijinsky |
【第1稿】 2003/02/28 【最終更新日】 2003/02/28 |
城下の広場に棲みてより大道芸を生業ひて暮したる流浪の(ろうかん)ニジンスキー曰く「拙者産まれ付いての偽者なり」との触れ込み広場に集ふ庶民の間にては殊(こと)に有名なる与太(よた)噺(ばなし)なり。常日頃より好奇に目無き余興王にして晩餐会の折に噂を耳にしては夜の帳(とばり)も開けぬ中(うち)に広場にて酔(ゑ)いて寝入り端(ばな)のニジンスキーをば叩き起こしたる仕打ちも当然の成り行きか。「其処許(そこもと)の他に本者(ほんもの)の居るにも在らず、偽者とは如何なる理(ことわり)や?」との余興王の問ひに応へてニジンスキー畏れ多くも逆に問ひ返す。「かく宣ふ王こそ本当に本物の王なりや?」不遜なる言葉に臍(ほぞ)曲げし余興王の「何を申すか無礼者!」との罵声も何の其のニジンスキー更にも強烈なる言葉投げつけてみせたり。「偽者の他に無き王をば何を根拠にて本者と信ずるべきか拙者には皆目見当も付き難し」流石の余興王も是には返す言葉一切無く時待たずしてニジンスキー召し抱えられて富を得て名参謀とて後の世に名を馳せり。 (了) |
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