はらはらと粉雪が舞い散るホワイトお正月。
――って、なんだよそれ? 『ホワイトお正月』って。だっせー表現だな。普通はここで読む気なくすよ。某誌のコンテスト応募作品なら、1行目読んだだけで下読みさんがゴミ箱にポイ! だな。いやそれどころか「読んで損した」ってんで、手もみでクシャクシャにしてから鼻紙あるいはクソ紙として再利用だな。水洗便所なら詰まってしまうおそれがあるものの、どうせ下読みやってるのは売れない新人作家でたいした家には住んでいなくてボットン便所だから、問題ないのさ。それはまあいいとして、年の初めのめでてえ日取りだし、おまけしてもう少しだけ読み進めてやろうじゃねえか。アホなテレビ特番の見すぎで頭ん中、空っぽになっちまってることだし、リハビリ代わりにはなるだろう。
そんな寒空のもと早朝から、和尚さんが二人、お堂から出てきました。
――おいおい、『和尚が2人』って、まさか……?
これが本当の『和尚が2(ツー)』……なんてしょうもないオチにつなげようというわけではありませんから、ご安心くださいませ。
――ほっ。よかった。そりゃまあそうだよな。きょう日、そんな駄洒落は新生児 でもいいやしねえ。ってか、新生児が言葉しゃべれるかっつうの! あはあはあはは。
俺って冴えてる? いや、まてよ。俺は何を言ってるんだ。脳味噌ウんでるのかな。 やばいやばい。
二人の和尚は『ボーン・トゥ・ビー・ワイルド』を開け放たれた窓から爆音で村中に撒き散らしながら、プレスリー仕様のピンク色のキャデラックで村のメインス
トリートをぶっとばしました。
「やっぱ、ステッペン・ウルフっすよね、兄貴」
「おお。おめぇもこの良さがわかってきたか。本当はハーレーに跨って聴きたいところだけどよ、寒いしな」
――『ステッペン・ウルフ』たぁ、マニアックな話だな。……まさか、通な会話 で『和尚が通』とか言わねぇだろうな。だったらぶっ殺すぞ?
いやいや、そんなチンケな展開にはしませんから、ぶっ殺さないで下さいよ。どうぞ穏便に願います。
――ならよかった。あせっちまったよ、俺。……ってこの文章、なんで読者の俺 のつっこみに答えてんだ? なんだか気味がわりぃな。まあいいか。
そんなこんなで辿り着いた先は、村一番のプレイスポット『村民憩い温泉』前の 駐車場でした。プリンスの歌に出てきたような真っ赤なコルベットが待っていました。
「よぉ、おそかったじゃねぇか」
運転席側のスモークのかかったパワーウィンドウを開けてそう言ったのは、これま た袈裟を着た和尚です。元プロボクサーのガッツ石松にそっくりな顔をしています。
――なんだってここで急に『ガッツ石松』が出てくんだよ! あとの二人は、誰似なんて描写してなかっただろ! ……まさかとは思うが、ガッツ似の和尚だから『和
尚ガッツ』とか?
まさかまさか。ないですよそれは、いくらなんでも。何となく思いつきで書いてみただけです。別に誰似でも良かったのです。
――そうか。それならそれでいいか。思いつきで描写するなんざぁ、志賀直哉みてぇでなかなか粋なことするじゃねぇか。……それにしてもこうやって文章と会話できちまうのって奇妙な按配だが、これはこれで愉快でもあるな。意外とこれ、いける作品なんじゃねぇの?
お褒め頂き、真に光栄と存じます。まだまだ話は続きます。この先にアッっと驚く大 きな展開が待ち受けています。
――そんなに改まって言われちゃ、てれるじゃねぇか。楽しみにしてるから、まァ、話 を続けな。
めでたしめでたし。
――え? 『めでたしめでたし』って、唐突に、何それ? これで終わりってか? なんじゃそりゃあ!? オチはどうしたんだよ、オチは!! ふざけるのもたいがいにせ
ぇよ!? 信じられんよ。何なんだこれは? あらら。本当にこの先、何も書かれてねぇ よ。しょうもないどころの話じゃねぇ。俺は何をしていたんだ。冗談じゃない! 松の内も過ぎてねぇのに、すっかり正月ボケも吹き飛んじまったよ。あぁあ。だめだよ、こんなの。
いい加減にしてくれよ。くっそー、どうしてくれようぞ。目の前に作者がいやがったら、 すぐにでも殴ってやりたいくらいだ。むむむむむ。どうしてこのやるせなさを晴らせばよ
いというのか。……とりあえず、酒でも飲んで気を落ち着けよう。……ぐは。なんらこりわ。買いだめしてあったウィスキーボトル10本、もうすっからからかんになっちったのね、ねのねのねん。って『ジャンプ放送局』の『えのん』こと榎本さんかよ! 古いな。なんじゃらほい。あはあはあはは。気持ちよくなってきちまった
でぇ、ほんまに。関西人でもないのに関西弁なってきてはるし。ってこれは京都弁? だっふんだ! ってそれは変なおじさんか。合コンで言うといまだにウケるよね。志村けん
はすごい。あはあはあはは。屁のツッパリはよろしくメカドック! ってまた『ジャンプ』ネタだし。本当は俺、『マガジン』派だったんだけど。もうだめだ。……よし、決めた。テロリストにでもなるか。ちょっくらいってきま。……とりあえず国会議事堂爆破。おんな全員レイプ。んでもって下校時に買い食いしてやる! これで文句なし、はいタイーホ。ガチャリ。……ん? 死んだはずの妻が手を振っている。お盆はまだ先のはずなのに、けったいな
こって。
「よぉ、お前。久しぶりだな」
「あなた! とうとうこっちに来てくれたのね? 嬉しいわ!」
「……え? もしかして俺、死んじまったのか?」
「まあ、いいじゃない。これでいつまでも一緒に暮らせるんだから」
「それもそうだな。愛してるよ」
「あたしもよ」
そして二人は抱き合って炎のようなディープキッス。 まさに『盆と正月がいっぺんにきた』というわけであります。 これで本当にめでたしめでたし。
よいお年を! (了)
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