工藤伸一の小説
佐野元彼
【第1稿】 :2003/01/12 【最終更新日】 :2005/06/17

 彼の名は佐野元彼。『元彼』といってもあだ名ではなく、本名なのだ。
 ちなみにシンガーソングライターの佐野元春とは何の関係もない。
 それはさておき、この奇妙な名前が原因で彼はこれまで嫌な思いをし続けてきた。
 彼はハンサムで優しくて大金持ちの御曹司なので女にはモテまくりなのだが、彼女達に『元彼』と呼ばれるのが悔しくてたまらなかったのだ。
 彼はある日、何故そんな名前を自分に付けたのかを、父に訊いてみた。
 いつものようにパイプを加えながら風呂上りのパープルのガウンを着込んでリビングに現れた偉大なる彼の父は、チャームポイントのロマンスグレーのサラサラヘアーを掻きあげながら厳かに口を開き始めた。ちなみに母親似の元彼の髪はセットしづらい猫ッ毛の天然パーマで、父のストレートの剛毛に、言いようのない憧れとも嫉妬ともいえる感情を彼は抱き続けていた。
「元彼。お前は、私の子じゃないんだよ。私とお前の母親が知り合った頃、お前の母親は聖心女学院イチの美貌の持ち主で、東京大学の優等生らと合コンをしては、彼らを軒並み食いまくっていた売女のようなこざかしい女だったのさ。そしてお前は、奴の元彼の遺伝子を持った、私とは赤の他人の息子だったわけさ。それなのに私は、お前の母親の演技に騙されて、結婚しちまったのさ」
「だからって、どうしてこんな名前をつける必要があったんですか!」
「復讐のためさ。お前の母親はお前を産んですぐに亡くなったから、矛先を向ける相手は、お前しかいなかったというわけさ」
「あなたは……なんて執念深い男なんだ! 見損なったよ。てめえなんぞ、親じゃねえ!」
「それはこっちの台詞だ。お前は赤の他人の息子だからな。それなのに私の庇護下でたらふくいい思いをしてきた盗人風情が、いまさら私を悪く言うとは笑止な話だ。恥を知れ!」
「恥はかきまくってきたさ! ふざけるな! 名前を変えてやる! 日本の法律には、そういう手段がある!」
「無理さ。私は国家権力をも押さえつけることができる発言権を持っている。お前は永遠に元彼の息子という宿命を背負って、生涯苦しみ続けるのだ!」
「なんて野郎だ。さすがにあくどい事をし続けて経済界の頂点にのし上がっただけのことはあるな。しかし、いまに見ていろ! オレはお前を完膚なきまでに叩きの
めしてみせるからな!」
「口だけは達者だな。お前の母親のじゃじゃ馬っぷりを思い出すよ。まあ、せいぜい頑張れよ、若人」

(第2話につづく。。。かも)


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